華氏911

11日、新宿へ。
新宿の街を歩くのは実に久し振りだったが、人の多さには閉口した。都会人である自分が言うのも何だが、あれだけ周りに歩く人がうじゃうじゃいるとどうも息がつまりそうになる。自分が歳をとった証左の一つなのだろうか。


映画「華氏911」を観た。くしくも同じ9月11日である。

今をときめくムーア監督の映画であるが、前作の「ボウリング・フォー・コロンバイン」がアメリカの銃社会の風刺したものであるなら、今回はブッシュ大統領批判のドキュメンタリーといったところか。「ボウリング・フォー・コロンバイン」と同じように次から次へと速いテンポで、これでもかこれでもかと衝撃的かつ視点の鋭い映像が続く。字幕も矢継ぎ早に出てくるが、しかしそれがムーア映画の特徴でもあり、妙に心地が良い。
話は2000年の米大統領選から始まる。そしてブッシュ大統領の就任。一番驚いたのは、就任から翌2001年9月11日まで、4割が休暇であったこと。実際にゴルフや釣りをしているブッシュ大統領の映像が流れる。
さらに印象的だったのは、9月11日のテロ発生時、大統領が学校で子供に本を読んで聞かせているシーン。政府関係者(ボディガード?)がテロ発生の旨を耳打ちしたにもかかわらず、その後何もリアクションがなかった。もし自分だったらどうしただろうと考えた。あるいは小泉首相シラク大統領やプーチン大統領だったら・・と。あの決して短くない時間の流れている間、ブッシュ大統領の脳裏にあったものは何だったのだろうか。
そして事態は、史実どおり、アルカイダイスラム原理主義政権タリバンへの空爆愛国者法制定、2003年にはバクダッド侵攻からイラク戦争へと深みにはまってゆく。
その間、ムーア監督が集めた映像によれば、いかにブッシュ大統領が独裁的に戦争を始めていったかがよくわかる。ややムーア監督特有の偏り過ぎ感はあるけれど、ブッシュ大統領が「アメリカは正義の国」、「イラク大量破壊兵器を開発している」「サダム・フセインは恐い」などとアメリカの大衆に対して演説、団結を求めたのは事実である。自らのカリスマを利用して政府首脳をも説き伏せたのだから、それは「お見事」としか言いようがない。
だが当然のことながら、ブッシュ大統領に対して反発する者も出てくる。ムーア監督もしかりだが、それは兵士の中にもいるし、息子を戦争で無くした家族もその悲しみをさらけ出して登場する。
政府の絶大な権限で個人情報を収集することを認めた愛国者法を、ワゴン車に乗って実際に読んでゆくムーア監督の姿勢には恐れいる。さすがである。彼はまた議員に「自分のご子息を戦場に送ったらどうです?」とロビーもする。
イラクへ行ったかの日本人が人質にされたビデオも写る。
それにしても、よくこれだけの映像を集めたものだ。ムーア監督の独特の手法と言っていいし、ドキュメンタリー映画界に新風を巻き起こしたのではなかろうか。「ボウリング・フォー・コロンバイン」にしてもそうだが、こうすることでアメリカという国が抱えているモノが何かが実に良く理解できる。
次はアメリカの「暴力性」について、映画を作って欲しいものだ。銃社会、戦争とも関連するが、なぜアメリカはこうも「前へ出る」国なのかを考えさせる映画ができたらいいなと思う。