寿町散策

前掲の「ソーシャルワークの作業場 寿という街」を読了。その上で、久し振りに寿町に足を運んでみた。デジカメを持って、どんな所かをより詳しく探りに行く。

ホームレスの人たちがたむろしてるだけあって、やはり町全体が汚い。ほとんどが男だ。相変わらずである。簡易宿泊所=ドヤそのものも、地方の場末のこじんまりとしたビジネスホテルを思い起こさせる。
道路の両脇には食堂やスーパーや飲み場などがずらりと軒を作っていて、男たちは世間話をしながら談笑している。中には競馬や競艇の中継所もあって、そのテレビに夢中になっていたところもあった。
上を見上げれば、「〜荘」とか、「〜館」と書かれた宿泊所の看板が所狭しと掲げられていて、その窓には布団が干されてあり、これもまた目立つ。
驚いたのは、スーパーなどで売られているモノの値段である。シャツやタオルなどの生活必需品が「普通」の2、3割安い。食べ物もまたしかり。ジュースの自動販売機には大きく「90円」と張り紙がしてあった。ここに住んでいる人たちへの配慮だろう。
宿泊所の料金は1,700〜1,800円、高くても2,200円止まりと本に書かれていた。でも、これは生活保護を受けて、職を探している人たちにとっては厳しいだろう。本にも書かれている通り、月額にしたらアパート代と変わらない。かといって、安い部屋に住むには覚悟がいるという。実際問題、料金を払って住んでいる人がどのくらいいるのかは不明だが、ところどころに「空き部屋有り、入居者募集」の張り紙がしてあったのは気になった。

奥へ歩くと、寿町総合労働福祉会館、という寿町ではかなり目立つ大きな建物にぶつかった。デザインが凝っていて、構造的にちょっとしたラビリンスを彷彿とさせた。そういえば市役所も同じような感じだったのを思い出した。横浜の公共の建物って有機的でいいなぁと思ったりもした。会館の上は、市営寿町住宅である。
会館の中庭に入ってゆくと、やはり汚い。思わず自分の卒業した大学の○○年館がフラッシュバックした。そこでも男たちがたくさん集まっては談笑していた。ベッドを持ち込んで寝泊りしている人たちもいる。宿泊所とは違い、ここもまた彼らの生活空間なのだ。
会館は(財)寿町勤労者福祉協会、寿労働センター(無料職業安定所)があり、食堂や理容室や診療所、ロッカーやランドリーがある。その名のとおり便利な総合施設で、なんと浴場まであり、休日でも営業していた。ただし入浴料金は「普通」と変わらず400円と書かれていた。出入りしている感じがわからなかったが、多分たまに入ってはさっぱりしているのだろう。
気になったのは、談笑仲間に入らず、一人でぼうっと座っている男たちが多いことだ。自分の人生や家族のことを思っているのだろうか、よくわからないが、見た目にも悲壮感が漂っていた。訳ありの人生を送っているようであった。声をかけて話を聞こうかと思ったけれど、ちょっと勇気が出なかった。またの機会に話が聞き出せれば、と思った。

明るい(?)話題を一つ。会館の中にはミニコミ紙が貼ってあった。「今晩は!夜回り仲間です」という新聞である。月刊(第4土曜)で市発行とある。なぜ、「今晩は」で「夜」なのかは知る由もないが、中身は要するに挨拶である。「今日も頑張ろう!」とか「梅雨ですが健康には気をつけましょう!」とか書かれているだけだった。あとは、フリーマーケット開催、とか運動会のお知らせとかそんなものだった。
いい大人が、しかもそういう人生を送っている人たちが関心を持つとは思えない稚拙な内容である。たまたま6月号がそのような内容になったのかもしれないが、これを読んでしばらくは「う〜ん」とうなって、立ち止まって考え込んでしまった。こういうこともある意味必要なのかもしれない。

最後に余談であるが、写真を撮っていたら、僕と同じぐらいの歳の強面のお兄さんが、「何を撮ってる」と怒鳴って近寄ってきた。「まずいな」と思いながらも、「建物や風景を・・・」と笑顔で応えたら、「フォーカスに売り渡すんじゃないだろうな」と聞かれた。「違いますぅ。個人で撮っています」と応えたら、「ふうん。ほんとだろな」と言って離れた。その瞬間に安心感を覚えて、逆に「ここはどんな街ですか?」と聞いた。「見りゃわかるだろ」と言って向こうに行ってしまったが、もっと勇気を出してわからないことを聞けばよかったと後悔した。